\(Einstein\) が1915年に重力方程式を提唱してから、わずか1年、それも戦場で\(Schwarzchild\)が、この方程式を解いてしまった。
条件設定がかなり限定される、非常に特殊な条件下での解であるとは言え、そんなにも簡単なのか?それともドイツに住む経験を持つユダヤ人は人類を超越したすばらしき何かをDNAに組み込まれているのか?
実際に手を動かしてみようと思う。
■方針
ただ解きたいだけではない。すでに知られている解法をなぞるだけでは何も意味がない。それはそれで大変な作業であることは知っているし、意味がないとは暴言かもしれない。
でも違うんだ。知りたいのは解の出し方ではなくて、なぜひらめいたのか、その思考の過程を知りたいのだ。何をどう考えて解いたのか、そこを知ればもしかしたら未知の解を出せるかもしれないと、そういう淡い期待を持ってもいいじゃないか。
\(Einstein\)の重力方程式は、
\(G^{\mu\nu}=\displaystyle\frac{8\pi G}{c^4}T^{\mu\nu}\)
と書ける。これは4次元で2階の非線形偏微分方程式だから、単純にはいかない。全部展開してしまって独立した方程式にしてやれば10本の連立式になる。
4つの次元\((t,x,y,z)\)について、それぞれ組み合わせがあるわけだから、時間の次元が関わる\((t-t),(t-x),(t-y),(t-z)\)の間での関係性を表す式と、空間の次元だけで組める\((x-x),(x-y),(x-z),(y-y),(y-z),(z-z)\)の6つの組み合わせのトータル10本となる。
前者の4本は「運動量保存則」と「エネルギー保存則」を表す式で、後者の6本は「運動方程式」を表している。意味が分かっているなら、それぞれ解いてやればいいかとも思ったが、せっかく\(Einstein\)が時間と空間を統合したのに、それを崩して解くのでは時代を逆行しているような気がする。
やはり時空を時空のままで解決させようとする方がスマートなのかもしれない。
結局、調べたがよくわからなかった。やっぱり先人の歩んだ道をただなぞるしかないのだろうか…。
\(Schwarzschild\)の歩んだ道をとりあえず進んでみることにする。
仮定1:静的
動いていないということである。つまり時間がどんな値でも結果は同じであるから、時間反転対称と言ってもいいかもしれない。
仮定2:球対称
中心から見れば、\(θ\)も\(φ\)も、どんな値で計算しようと、これも結果は同じになる。
仮定3:真空
空間に何も物質がないんだ。これを仮定すると右辺のエネルギー運動量テンソルは0となる。質量とはエネルギーのことだから。
ずいぶんと理想化しすぎではなかろうか。静的な天体なんか存在しないだろう。ほとんどすべての天体は自転しているはずだ。しかし自転の速さとは、何を基準に判断しているんだろうか。もしかしたら静的な天体というものは意外にも多いのかもしれない。
球対称は分かる。天体はきっとほとんどが球状であるから。ただ、銀河のようなものに適用しようと思ったら何か別の策を考えなければいけなさそうだ。
真空。これは画期的ともとれそうだし、強引だとも考えられる。天体の外部の状況はこれで分かりそうだ。しかし天体の内部の状況を考えようと思えば、物質が半径とともに密度を変えながら存在しているはずだから、別の方法が必要になる。
天体の外部での解までなら求められるということだろう。しかも恒星が放出するガスや物質や、エネルギーや質量をもつありとあらゆるものがないとしてだ。
そして、そもそも恒星でないかもしれない。宇宙に浮かぶ、球状の何かであればいいわけだから、運良く何物の重力圏からも離脱してしまった球状の小惑星があるなんていうことは、可能性としてゼロではない。
何にせよ、こだわり出したらキリがないから、\(Schwarzschild\)の3つの仮定から話をスタートさせることにしよう。