■再び方針
別の指針を思いついた。\(Schwarzschild\)解を目指すわけではなくて、まずはきちんと\(Einstein\)方程式の一般解を解こうと目指してみる指針である。
\(Einstein\) 方程式を書き出すと、
\(G^{\mu\nu}=\displaystyle\frac{8\pi G}{c^4}T^{\mu\nu}\)
であった。これを解いて、時空がどのように曲がっているかを表す線素
\(ds^2=g_{ij}dx^idx^j\)
がどんな値になるのか。もっと言えば、\(g_{ij}\)の中身は何かを調べる。これが大きな方向性である。
物理にありがちな手法だが、なにも\(Einstein\) 方程式から始めて、線素に行きつく必要はない。\(Einstein\)方程式で進めそうなところまで進めておいて、線素は線素で変形していって、それぞれの式の妥協点で方程式を解くのも手法である。
これは特殊な計算テクニックを使っているわけではない。
ちょうど、中学校で解く連立方程式で、たとえば \(2x+3y=8\) と \(3x+2y=7\) を連立しなさいと言われたとき、片方の式を「\(x=\)」なりに変形して、もう片方の式に代入する「代入法」を使わなくても、それぞれの方程式の係数を揃えて加減算する「加減法」でも解けると、そういうことではなかろうかと思う。
どうやら、\(Schwarzschild\)は、この計算指針のもとで式を動かすとき、線素の方の式を変形するときに発生する手詰まりを解消するために、前回書いたような3つの仮定をしたようである。
■まず\(Einstein\)方程式から攻める
\(Einstein\)の重力方程式は、
\(G^{\mu\nu}=\displaystyle\frac{8\pi G}{c^4}T^{\mu\nu}\)
である。ここで左辺の\(Einstein\)テンソルをきちんと書き出してやると
\(R^{\mu\nu}-\displaystyle\frac{1}{2}g^{\mu\nu}R=\frac{8\pi G}{c^4}T^{\mu\nu}\)
となる。
右辺のエネルギー運動量テンソルは、最終的に真空を考えることで0にできるから、左辺から右辺に移項できそうなものは移項してしまって、まるごと消し去ってしまいたい。
結論から言うと、第2項を移項して\(R\)ではなくて\(T\)で表してやることになった。この変形を追ってみようと思う。
まず添字を上付きから下付きに変えてやる。
\(R_{\mu\nu}-\displaystyle\frac{1}{2}g_{\mu\nu}R = \frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}\)
両辺に \(g^{\mu\nu}\) をかける。ところで「かける」という表現は正しいのだろうか。何というのだろう。
\(g^{\mu\nu}R_{\mu\nu}-\displaystyle\frac{1}{2}g^{\mu\nu}g_{\mu\nu}R = \frac{8\pi G}{c^4}g^{\mu\nu}T_{\mu\nu}\)
縮約できるところはまとめてしまおう。とりあえず\(ν\)を縮約。
\(R^{\mu}_{\mu}-\displaystyle\frac{1}{2}δ^{\mu}_{\mu} R = \frac{8\pi G}{c^4}T^{\mu}_{\mu}\)
続けて\(\mu \)も縮約
\(R-\displaystyle\frac{1}{2}・4・R = \frac{8\pi G}{c^4}T\)
\(R-2R = \displaystyle\frac{8\pi G}{c^4}T\)
\(R = -\displaystyle\frac{8\pi G}{c^4}T\)
これをもとの式に戻してやろう
\(R_{\mu\nu}-\displaystyle\frac{1}{2}g_{\mu\nu}\)\(R\)\( = \displaystyle\frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}\)
\(R_{\mu\nu}\)\(+\)\(\displaystyle\frac{1}{2}g_{\mu\nu}\)\(\displaystyle\frac{8\pi G}{c^4}T\)\( = \displaystyle\frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}\)
\(R_{\mu\nu}= -\displaystyle\frac{1}{2}g_{\mu\nu}\)\(\displaystyle\frac{8\pi G}{c^4}T\)\( +\displaystyle\frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}\)
\(R_{\mu\nu}=\displaystyle\frac{8\pi G}{c^4}(T_{\mu\nu}-\frac{1}{2}g_{\mu\nu}T)\)
これでおしまい。
これは純粋に\(Einstein\)方程式を書き換えただけだから、\(Schwarzschild\)解に限らず、未だ知られない一般解であっても、この式は使える。何やらお得な話をしているようだが、単に第2項を移項しただけである。\(Einstein\)方程式は項ひとつ移項するだけでもこんなに苦労するのか。先が思いやられる。
▼\(Einstein\)方程式
\(G^{\mu\nu}=\displaystyle\frac{8\pi G}{c^4}T^{\mu\nu}\)
\(R^{\mu\nu}-\displaystyle\frac{1}{2}g^{\mu\nu}R=\frac{8\pi G}{c^4}T^{\mu\nu}\)
▼書き換えた\(Einstein\)方程式
\(R^{\mu\nu}=\displaystyle\frac{8\pi G}{c^4}(T^{\mu\nu}-\frac{1}{2}g^{\mu\nu}T)\)
\(R_{\mu\nu}=\displaystyle\frac{8\pi G}{c^4}(T_{\mu\nu}-\frac{1}{2}g_{\mu\nu}T)\)
※添字の上下は両辺が揃っていればどちらでもよい。
なぜわざわざ下付きに変えたのか。それは単に好みであって、別に上付きのまま式変形をしてもかまわないようである。たまたま読んでいた本が下付きを主に使って説明しているから、いちいち頭の中で書き換えて記事を作るのがめんどくさかっただけである。
上付きと下付きは「双対性」というものがあって、数学的には自由に上下させることができるし、同等のものであるそうだ。
空間成分の座標系の基底を\((e_x,e_y,e_z)\)のように下付きで取る座標系と、\((e^x,e^y,e^z)\)のように上付きでとる座標系の2つを考えることができるが、\((e_x,e_y,e_z)\)の系の方をベースに考えると、\(Einstein\)方程式は上付きのものが正しい定義となる。
このあたりは、本題からそれて数学的な部分の話になるから、あまり深く踏み込まないでおく。
できるだけ全体像をつかんでから、枝葉の部分を復習していこうと思う。