さて、真空の\(Einstein\)方程式を解くために、左辺を展開してみたところ、
\(R_{\mu\nu}=0\)
ただし
\(R_{\mu\nu}≡R^{\sigma}_{\mu ,\sigma \nu}(=R^{(ct)}_{\mu ,(ct) \nu}+R^x_{\mu ,x \nu}+R^y_{\mu ,y \nu}+R^z_{\mu ,z \nu})\)
\(R^{\kappa}_{\lambda ,\mu\nu}≡\partial _{\mu}\Gamma^{\kappa}_{\lambda \nu}-\partial _{\nu}\Gamma^{\kappa}_{\lambda \mu}+\Gamma^{\tau}_{\lambda \nu}\Gamma^{\kappa}_{\tau \mu}-\Gamma^{\tau}_{\lambda \mu}\Gamma^{\kappa}_{\tau \nu}\)
\(\Gamma^{\lambda}_{\mu\nu}≡\displaystyle\frac{1}{2}g^{\lambda \sigma}(g_{\sigma \nu ,\mu}+g_{\sigma \mu ,\nu}-g_{\mu \nu ,\sigma}) \)
であった。ここから計量テンソル\(g_{\mu\nu}\)が何であるかを求めるのは大変そうであるから、今度は逆に\(g_{\mu\nu}\)の方を式変形して、方程式が解きやすい形になるか探してみよう。
■線素から攻める
\(ds^2=g_{\mu\nu}dx^{\mu}dx^{\nu}\)
であるから、書き出してみると、
\(ds^2=A(\mathbf{r})[-d(ct)^2+dx^2+dy^2+dz^2]\)
である。これから球対称を要請するから、座標系は球座標のほうがいいだろう
\(x=rsinθcosφ\)
\(y=rsinθsinφ\)
\(z=rcosθ\)
としてやって、全微分。
\(dx=sinθcosφ dr + rcosθcosφ dθ - rsinθsinφ dφ\)
\(dy=sinθsinφ dr + rcosθsinφ dθ + rsinθcosφ dφ\)
\(dz=cosθ dr - rsinθ dθ\)
これを、それぞれ2乗してやって、全て足し合わせよう。さすがに記事にするのは大変だから省略する。
\(dx^2+dy^2+dz^2 = dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2\)
つまり、極座標に直した線素は
\(ds^2=A(\mathbf{r})[-d(ct)^2 + dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2]\)
となる。
■前提への疑問
しかし、これにはごまかされている部分があるような気がする。特殊相対論以来、線素はそもそも三平方の定理から導かれたから
\(ds^2=A(\mathbf{r})[-d(ct)^2+dx^2+dy^2+dz^2]\)
としても何の違和感もなく計算に入ってしまう。しかし、今考えているのは
\(ds^2=g_{\mu\nu}dx^{\mu}dx^{\nu}\)
であるから、空間成分だけ考えても、本当は
\(dx^2+dxdy+dxdz+dydx+dy^2+dydz+dzdx+dzdy+dz^2\)
ではないのか。
しかし、このあたりの疑問は、直交座標の計量テンソルを計算するときにすでにクリアしている話で、そもそも直交座標を考えて話をスタートするときには2次の項しか残っていないところから話を始めても特に問題はないようである。
そうすると、直交座標を極座標に直したときに、うっかり1次の項が復活して、意味を持ってしまうのではないかというところに注意をしなければいけなくなる。それを解決しておこう。
■球対称な時空での極座標の計量テンソル
仮定1から、計量は時間によらないので、
\(t \longmapsto -t\)
としても\(ds^2\)が不変となるためには、\(t\)の1次の項を含むような、\(d(ct)dr,d(ct)dθ,d(ct)dφ\)のような成分があってはいけない。
仮定2から、球対称であれば計量は\(θ\)や\(φ\)についても
\(θ \longmapsto -θ\)
\(φ \longmapsto -φ\)
としても\(ds^2\)が不変となるために、\(drdθ,drdφ,dθdφ\)のような成分もなくなる。
結局、2次の項しか生き残らなかった。
■座標系は何でもよい
というか、ここまで頑張ってはみたが、曲がった時空について、その時空がどう曲がっているのかが分からないにも関わらず、その時空の曲がり具合に沿った座標系をあらかじめ用意するなんていう離れ業は無理だということに途中で気が付いた。
そもそも相対論では、座標系の区別がつかないんだから、自分の扱いやすい好みの座標系を使ってやればいいわけだ。
時空が曲がっていようと曲がっていまいと、こちらは勝手に直交座標で計算してしまえばいい。それで特異点が出てきてしまったら、それが座標のとり方による「数学的な特異点」なのか、それとも物理現象に由来する「物理学的な特異点」なのか、それは後から考えればいい。
つまり、以降の計算は、「物理的には曲がった時空」を、「数学的には平坦な極座標」で計算していることになるようである。当然ながら数学的には煩雑な部分がでてくるのであろう。
これについては、認識に誤りもありそうである。もう少し正しく理解してきたら修正していこう。
▼球対称な時空での極座標の計量テンソル
\(ds^2=A(\mathbf{r})[-d(ct)^2 + dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2]\)
つまり
\(g_{\mu\nu}=A(\mathbf{r}) \begin{pmatrix} -1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & r^2 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & r^2sin^2θ \end{pmatrix}\)
■時空の曲がりを想定してみる
\(ds^2=A(\mathbf{r})[-d(ct)^2 + dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2]\)
において、\(A=1\)としてしまえば、いよいよ完全に時空は平坦になってしまう。
少なくとも、直交座標で考える微小長さと比較して、\(r\)に依存する量に関しては長くなることは目に見えてわかっている。そして、角度方向に関しては変わらなさそうである。これを調節しているのが\(A(\mathbf{r})\)である。
無限遠では時空は平坦である(ミンコフスキー時空に従うともいえる)から、
\(\displaystyle \lim_{ r \to \infty }A(\mathbf{r})=1\)
であるような量を考える。角度方向に関して不変であることも考慮して、分配すると、
\(ds^2=-B(\mathbf{r})d(ct)^2 + C(\mathbf{r})dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2\)
となる。もちろん無限遠では、どちらの係数も
\(\displaystyle \lim_{ r \to \infty }B(\mathbf{r})=1\)
\(\displaystyle \lim_{ r \to \infty }C(\mathbf{r})=1\)
である。のちに分かることだが、この係数\(B\)と\(C\)に関しては、
\(ds^2=-e^{\nu(\mathbf{r})}d(ct)^2 + e^{\lambda(\mathbf{r})}dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2\)
としてやると計算がラクになる。
▼球対称な時空での極座標の計量テンソル
\(ds^2=-e^{\nu(\mathbf{r})}d(ct)^2 + e^{\lambda(\mathbf{r})}dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2\)
つまり
\(g_{\mu\nu}= \begin{pmatrix} -e^{\nu(\mathbf{r})} & 0 & 0 & 0 \\ 0 & e^{\lambda(\mathbf{r})} & 0 & 0 \\ 0 & 0 & r^2 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & r^2sin^2θ \end{pmatrix}\)