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シュワルツシルト解の導出5

■静的・球対称・真空条件の重力方程式

 ここまで長い計算をしていたが、結論として、静的で球対称という条件のみから、\(Ricci\)テンソルを計算して、それは10本の重力方程式のうち生き残るのが4本だけ、ということだった。

 

 これに真空条件を適用して、右辺を\(=0\)として解くのが\(Schwarzschild\)解の指針であるが、右辺にきちんと物質を指定して解けば、別の解が出る。それは今度にしよう。ここまできちんと解くと、物理的な意味がつかめてきたから、指針と式の構造が少し分かってきた。

 

 まとめると、左辺が、静的・球対称の条件で変形された4本の式で、右辺の\(=0\)が真空という意味である。

 

 あとは、この4本の連立式を解くだけである。3式目と4式目は右辺を\(=0\)にすることで同値となるから、実質3本の連立だけ解けばいい。

 

 

▼静的・球対称・真空条件の重力方程式

 \(R_{00}=\displaystyle\frac{1}{4}e^{\nu-\lambda}\left[ (\nu')^2-\lambda' \nu' +2\nu''+\frac{4}{r}\nu' \right]=0 \) ――①

 \(R_{11}=\displaystyle\frac{1}{4}\left[ (\nu')^2-\lambda' \nu' +2\nu''+\frac{4}{r}\lambda' \right]=0 \) ――②

 \(R_{22}=e^{-\lambda}\left[\displaystyle\frac{r}{2}\lambda'-\frac{r}{2}\nu'-1 \right]+1=0\) ――③

 \(R_{33}=R_{22}sin^2\theta=0\) ――④

 

■さあ解こう!(①②式の処分)

①②から

 

 \(\displaystyle (\nu')^2-\lambda' \nu' +2\nu''+\frac{4}{r}\nu' =0 \)

 

 \(\displaystyle (\nu')^2-\lambda' \nu' +2\nu''+\frac{4}{r}\lambda' =0 \)

 

なので、辺々引くとすぐに

 

 \(\nu'+\lambda'=0\) ――⑤

 

まできれいにできる。この形はあとで使えそうなので、⑤としておこう。

さて、この連立式、そもそもどこに向かって進んでいるのか。分からなくなったら式変形の初めから読み直さなければならない。

シュワルツシルト解の導出2 まで遡ると、

 

  \(ds^2=-e^{\nu(\mathbf{r})}d(ct)^2 + e^{\lambda(\mathbf{r})}dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2\)

つまり

 \(g_{\mu\nu}= \begin{pmatrix}  -e^{\nu(\mathbf{r})} & 0 & 0 & 0 \\  0 & e^{\lambda(\mathbf{r})} & 0 & 0 \\  0 & 0 & r^2 & 0 \\  0 & 0 & 0 & r^2sin^2θ \end{pmatrix}\)

 

の、\(-e^{\nu(\mathbf{r})}\)と\(e^{\lambda(\mathbf{r})}\)を仮置きしたままだったので、この中身を決定するための式変形をしていたようである。

 

もはや式変形が長すぎて、迷子になりそうだ。

 

 

そうすると、\(\nu'+\lambda'=0\)ではまだまだ途中じゃないか。ダッシュ(\(r\)微分)を取るために、\(r\)で積分してやって、生身の\(\nu\)と\(\lambda\)を手に入れよう。

 

 \(\displaystyle\int_r(\nu'+\lambda')dr=C_0\) \((C_0:const)\)

 \(\nu+\lambda=C\) \(C:const\)

 

同じくシュワルツシルト解の導出2をよく読んでみると、無限遠ではミンコフスキー時空(平坦な時空)として考えることにしていたようだ。

 

 \(\displaystyle \lim_{ r \to \infty }\lambda(\mathbf{r})=0\)

 \(\displaystyle \lim_{ r \to \infty }\nu(\mathbf{r})=0\)

 

なので、無限遠で等式を成立させるために、積分定数は\(0\)として良さそうだ。

 

 \(\displaystyle \lim_{ r \to \infty }(\nu+\lambda)=0\)

よって

 \(\nu+\lambda=0\)

 

■さあ解こう!(③式の処分)

③より

 \(e^{-\lambda}\left[\displaystyle\frac{r}{2}\lambda'-\frac{r}{2}\nu'-1 \right]+1=0\)

 

\(\nu'+\lambda'=0\)なので

 

 \(e^{-\lambda}\left[\displaystyle\frac{r}{2}\lambda'-\frac{r}{2}\lambda'-1 \right]+1=0\)

 

 \(e^{\lambda}(r\lambda'-1)=-1\)

 

ここで私には思いつかなかった式変形をする。

この形は慣れている人からすると、すぐに微分形になっていることに気付くようだ。

 

 \(\partial_r(re^{-\lambda})=1\)

 

よって積分して、

 

 \(re^{-\lambda}=r+C\) \(C:const\)

 

 \(e^{-\lambda}=1+\displaystyle\frac{C}{r}\) \((=e^{\nu})\) \((∵\nu+\lambda=0)\)

 

これでやっと導出2で置いた文字を処分することができた。

 

  \(ds^2=-e^{\nu(\mathbf{r})}d(ct)^2 + e^{\lambda(\mathbf{r})}dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2\)

に代入して

  \(ds^2=-(1+\displaystyle\frac{C}{r})d(ct)^2 + (1+\displaystyle\frac{C}{r})^{-1}dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2\)

 

あとは積分定数を処分するだけである。

 

■積分定数を処分

いま

 \(g_{00}=-(1+\displaystyle\frac{C}{r})\)

と求まったが、\(Newton\)近似を行うと、

 \(g_{00}≒-1-\displaystyle\frac{2\phi}{c^2}\)

であるから、

 \(-(1+\displaystyle\frac{C}{r})=-1-\displaystyle\frac{2\phi}{c^2}\)

 

 \(C=\displaystyle\frac{2\phi r}{c^2}\)、 \(\phi=\displaystyle\frac{c^2C}{2r}\)

 

また、\(\phi=-\displaystyle\frac{GM}{r}\)に対応していたから

 

 \(-\displaystyle\frac{GM}{r}=\displaystyle\frac{c^2C}{2r}\)

 

 \(C=-\displaystyle\frac{"GM}{c^2}\)

 

でなければならない。

よって最終的に表れた線素は、

 

  \(ds^2=-(1-\displaystyle\frac{2GM}{c^2r})d(ct)^2 + (1-\displaystyle\frac{2GM}{c^2r})^{-1}dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2\)

 

\(c=1、G=1\)という単位系をとれば、

 

  \(ds^2=-(1-\displaystyle\frac{2M}{r})d(ct)^2 + (1-\displaystyle\frac{2M}{r})^{-1}dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2\)

 

 

やっと求まった。これが解である。

 

 

▼\(Schwarzschild\)解

 

  \(ds^2=-(1-\displaystyle\frac{2M}{r})d(ct)^2 + (1-\displaystyle\frac{2M}{r})^{-1}dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2\)