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バーコフの定理の証明

 静的・球対称・真空 という条件を、球対称・真空 という条件に置換していく。

 シュワルツシルト解の導出をしていく中で、条件変更による解法の修正が必要な部分を確認しながら、最終的な解の導出までもっていこうと思う。

 

 これは、シュワルツシルト解を一度求めている前提で文面をまとめていくので、いきなりこの記事から読み始めるとつらいであろうことは前もって伝えておく。

 

■シュワルツシルト解の導出2の修正

 導出2において、球対称な時空での極座標の計量テンソル の項で

 

仮定1から、計量は時間によらないので、

 \(t \longmapsto -t\)

としても\(ds^2\)が不変となるためには、\(t\)の1次の項を含むような、\(d(ct)dr,d(ct)dθ,d(ct)dφ\)のような成分があってはいけない。

 

としていた。これは、時空が静的なので時間対称性がある、という制約であったが、動的であれば考え方が少しだけ変わる。

すなわち、時間対称性ではなく、時間並進性を持ち出すのだ。

 \(t \longmapsto t+\delta t\)

としても\(ds^2\)が不変となることを考える。4次元時空では時間と空間が同等のものとして扱われているので、\(t\)だけを特別扱いにして変化させるわけにはいかないので、結局\(t\)の1次の項を含むような、\(d(ct)dr,d(ct)dθ,d(ct)dφ\)のような成分があってはいけない。

 

 結局、計量は対角成分しか残ることはないので、仮置きしていた\((0,0)\)成分と\((1,1)\)成分の関数が時間にも依存すると変更しておくだけでよいことになる。

 

▼静的・球対称な時空での極座標の計量テンソル

  \(ds^2=-e^{\nu(\mathbf{r})}d(ct)^2 + e^{\lambda(\mathbf{r})}dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2\)

 

 \(g_{\mu\nu}= \begin{pmatrix}  -e^{\nu(\mathbf{r})} & 0 & 0 & 0 \\  0 & e^{\lambda(\mathbf{r})} & 0 & 0 \\  0 & 0 & r^2 & 0 \\  0 & 0 & 0 & r^2sin^2θ \end{pmatrix}\)

 

 ▼一般に、球対称な時空での極座標の計量テンソル

  \(ds^2=-e^{\nu(t,\mathbf{r})}d(ct)^2 + e^{\lambda(t,\mathbf{r})}dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2\)

 

 \(g_{\mu\nu}= \begin{pmatrix}  -e^{\nu(t,\mathbf{r})} & 0 & 0 & 0 \\  0 & e^{\lambda(t,\mathbf{r})} & 0 & 0 \\  0 & 0 & r^2 & 0 \\  0 & 0 & 0 & r^2sin^2θ \end{pmatrix}\)

 

■シュワルツシルト解の導出3の修正

 導出3に関しては、無視していた時間依存性をきちんと考えなければならないので、0でないアフィン接続係数が増えた、という点が変更部分である。

 

 そもそも値を持つ計量は\(g_{00}\)、\(g_{11}\)、\(g_{22}\)、\(g_{33}\)の4つだけであるから、これを微分してもなお値を持つことができるのは限られている。時間依存していなければ、時間微分の項はすべて\(0\)となるが、時間依存すると考え直すことで、時間微分の項が増えてしまう。

 

 具体的に言うと、\(g_{00}\)、\(g_{11}\)の2つの成分に関して、時間依存しないとすれば、\(g_{00,1}\)、\(g_{11,1}\)のみを考えれば良かったが、時間依存するために、さらに\(g_{00,0}\)、\(g_{11,0}\)も追加で考えた上で、アフィン接続係数(クリストッフェル記号)へと進む必要がある。

 

 \(\Gamma^{\lambda}_{\mu\nu}=\displaystyle\frac{1}{2}g^{\lambda \lambda}(g_{\lambda \nu ,\mu}+g_{\lambda \mu ,\nu}-g_{\mu \nu ,\lambda}) \)

において、0にならないのは

 

 \(g_{00,0}=\partial_0(-e^{\nu})=-\dot{\nu}e^{\nu}\)

 \(g_{00,1}=\partial_1(-e^{\nu})=-\nu'e^{\nu}\)

 \(g_{11,0}=\partial_0e^{\lambda}=\dot{\lambda}e^{\lambda}\)

 \(g_{11,1}=\partial_1e^{\lambda}=\lambda'e^{\lambda}\)

 \(g_{22,1}=\partial_1r^2=2r\)

 \(g_{33,1}=\partial_1r^2sin^2θ=2rsin^2θ\)

 \(g_{33,2}=\partial_2r^2sin^2θ=2r^2sinθcosθ\)

 

となる。赤い成分が、時間依存するとしたときに追加で現れた式である。これを用いてアフィン接続係数の0でない成分を探す。

 

0でないアフィン接続係数(クリストッフェル記号)は静的であれば13タイプ

 \(\Gamma^0_{01} =\Gamma^0_{10}=\displaystyle\frac{1}{2}\nu'\)

 \(\Gamma^1_{00} =\displaystyle\frac{1}{2}e^{\nu-\lambda} ・\nu'\)  \(\Gamma^1_{11} =\displaystyle\frac{1}{2}\lambda'\)  \(\Gamma^1_{22} =-e^{-\lambda}r\)  \(\Gamma^1_{33} =-re^{-\lambda}sin^2θ \)

 \(\Gamma^2_{12} =\Gamma^2_{21} =\displaystyle\frac{1}{r} \)  \(\Gamma^2_{33} =-sinθcosθ \)

 \(\Gamma^3_{13} =\Gamma^3_{31} =\displaystyle\frac{1}{r}\)  \(\Gamma^3_{23} = \Gamma^3_{32}=cotθ\)

 

これが、動的であれば、

 \(\Gamma^0_{00}、\Gamma^0_{11}、\Gamma^1_{01}=\Gamma^1_{10}\)

4タイプが追加される。それぞれ、

 \(\Gamma^0_{00}=\displaystyle\frac{\dot{\nu}}{2}\) \(\Gamma^0_{11}=\displaystyle\frac{\dot{\lambda}}{2}e^{\lambda-\nu}\) \(\Gamma^1_{01}=\Gamma^1_{10}=\displaystyle\frac{\dot{\lambda}}{2}\)

 

ドットは時間微分を表している。

 

■シュワルツシルト解の導出4の修正

 導出4では、0でないアフィン接続係数が4タイプ増えたことによって、リッチテンソルも影響を受けた。

 これも、いちいちを導出していると恐ろしい分量になってしまうので、結果だけ羅列することにする。

 変わったのは、赤字で示した成分である。

 

 \(R_{00}=\displaystyle\frac{1}{4}e^{\nu-\lambda}\left[ (\nu')^2-\lambda' \nu' +2\nu''+\frac{4}{r}\nu' \right] \) \(-\displaystyle\frac{1}{4} \left[ (\dot{\lambda})^2-\dot{\nu}\dot{\lambda}+2\ddot{\lambda} \right] \) \(=0\)

 \(R_{01}=\displaystyle\frac{\dot{\lambda}}{r}=0\)

 \(R_{02}=0\)

 \(R_{03}=0\)

 

 \(R_{11}=\displaystyle\frac{1}{4}\left[ (\nu')^2-\lambda' \nu' +2\nu''+\frac{4}{r}\lambda' \right] \) \(+\displaystyle\frac{1}{4}e^{\lambda-\nu} \left[ 2(\dot{\lambda})^2-\dot{\nu}\dot{\lambda}+2\ddot{\lambda} \right] \) \(=0\)

 \(R_{12}=0\)

 \(R_{13}=0\)

 

 \(R_{22}=e^{-\lambda}\left[\displaystyle\frac{r}{2}\lambda'-\frac{r}{2}\nu'-1 \right]+1\)

 \(R_{23}=0\)

 

 \(R_{33}=R_{22}sin^2\theta\)

 

■シュワルツシルト解の導出5の修正

 導出5

 

 \(R_{01}=\displaystyle\frac{\dot{\lambda}}{r}=0\) 

 

なる式が新たに登場したが、この式から、

 

 \(\dot{\lambda}=0\)

 

が導かれ、ついでに

 

 \(\ddot{\lambda}=0\)

 

であることも言える。するとどうだろうか。先ほど頑張って導出した\(R_{00}\)と\(R_{11}\)の追加項の部分が、まさにピンポイントで消えてなくなるではないか。

 

結局、連立式を解かなくても、この時点でシュワルツシルト解を求めるための4本の方程式と全く同じ形となったので、結果は同じになるに違いない、ということで結論を迎えた。

 

積分するときに\(r\)のみで積分するのか、\(t\)成分も考えるのか、という些細な違いはあるが、無限遠で計量は平坦になるから、結果は同じである。