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ライスナー・ノルドシュトロム解

■帯電した天体の重力方程式解

 

 ある天体が静的、真空、球対称であるという条件でアインシュタインの重力方程式を解くと、シュワルツシルト解を得ることができた。

 ここで、バーコフの定理を使うと、静的条件を課さなくとも、真空、球対称でありさえすれば同じくシュワルツシルト解を得ることができるということも判明した。

 

 これらは、どちらも真空条件を課したために、重力方程式の右辺を\(0\)とすることができ、式を簡略化し厳密解を得ることができるというものであった。

 

 重力場以外に他にも力を及ぼすものがあれば、どのような物理的な振る舞いがあるのかを考えてみたい。

 

 図は2016年の関西大学の学部入試の問題から取ってきたものである。斜面上にある小球を水平投射させると、点\(P\)から点\(C\)へと放物線を描くが、小球が帯電していて、さらにそこに電場が加わっていると、点\(C\)ではない別の場所に落下することになる。これについてポテンシャルエネルギーがどう変化するのかを問う出題であった気がする。

 

 このように、重力場以外に、たとえば電場が働いている空間を考えると、物理描像は書き換えが必要になることが分かる。

 

 この条件を課して重力方程式を解いてみよう、とするのが今回の目標である。

 

 イメージはこうだ。宇宙の真空の中にぽっかりと浮かぶ自転しない球状の天体がある。これが、どういうわけかきれいに帯電していて、宇宙にでっかい点電荷が浮いているような状況だ。この天体の近くを通過しようとすると、通過する物体が帯電していなければ、シュワルツシルト解と同じく、電場の影響を受けることなく重力場だけで運動は記述できるであろうが、天体の近くを通過する物体が帯電体であれば、当然何らかの影響を受けるはずである。

 この、「何らか」の部分を明らかにして、どのような軌道で天体の近くを通過することになるのかを表す描像を探してやりたいのだ。

 

 ちなみに、自転しない球状の天体は、球対称でありさえすれば、もはや静的でなくても良いから、重力崩壊の途中で、球対称を守ったまま半径が小さくなっていく天体を想定してもいいし、逆に膨張していく天体を考えてもいい。球対称であるということは、そういうことである。

 

 ゴールはきれいに表現したい。時空の曲がり具合がどのようになっているかを表しさえすれば、その後の物理描像がシンプルに描けるだろうから、やはりシュワルツシルト解のときと同じように、線素(\(metric\))がどのように表せるかを求める方針でいこう。

 

 

■\(Reissner-Nordstrøm\)解

 

 先人はすごいもので、当たり前のようにすでに解が得られている。新発見はなかなかできないものだ。

 

 \(1915\)年アインシュタインが重力方程式を発見して、ものの1ヶ月でシュワルツシルトは厳密解を発見した。発表こそ\(1916\)年であったが、発見自体はすぐになされていたのだ。そしてその\(1916\)年、またしてもドイツで従軍していたベルリン大学の教授ライスナーは、プロペラ機の軍事開発をする傍らで重力方程式の厳密解への道筋を立てている。

 

 \(1918\)年、ライスナーの道筋を手掛かりに、フィンランドのノルドシュトロムは厳密解へとたどり着いた。幸いなことにフィンランドは中立国であったからドイツの戦火から逃れる必要もなかったし、\(1918\)年初頭にアメリカが参戦して広めたスペイン風邪のパンデミックにも巻き込まれずに済んだ。こうして\(1918\)年には重力方程式の帯電解も発表にこぎつけることができた。

 

 それにしてもアインシュタインといい、シュワルツシルトといい、ライスナーといい、当時ドイツに暮らしていた物理学者の科学力の高さには脱帽する。一次大戦を描いた「西部戦線異状なし」という小説があるが、ドイツ科学は異状だらけではないか。

 

▼重力方程式

 \(G^{\mu\nu}=\displaystyle\frac{8\pi G}{c^4}T^{\mu\nu}\)

 

▼シュワルツシルト解

 \(ds^2=-\left(1-\displaystyle\frac{2M}{r}\right)d(ct)^2 + \left(1-\displaystyle\frac{2M}{r}\right)^{-1}dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2\)

 

▼ライスナー・ノルドシュトロム解

 \(ds^2=-\left(1-\displaystyle\frac{2M}{r}+\frac{Q^2}{r^2}\right)d(ct)^2 + \left(1-\displaystyle\frac{2M}{r}+\frac{Q^2}{r^2}\right)^{-1}dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2sin^2θ dφ^2\)