■クーロン力の線形性
一般的に考えて、電荷が2つである状況というのは限られた例である。ふつうは2つに限らず、もっと複数あってもいい。そういう場合にはたらくクーロン力を説明しようと思えば、単純にベクトル和をとってやればいい。
電荷1、電荷2、電荷3という3つの電荷があったとする。電荷1と電荷2の間で働く力は、電荷3の存在の有無に限らず成立し、電荷1と電荷3との間で働く力も、電荷2の存在の有無によって変動する値ではない。
このようにそれぞれが独立して説明できるとき、「線形性がある」と言ったりもする。クーロン力の場合は、この線形性が成立するために単純なベクトル和が可能なのだ。
しかしこれは本当は自明な話ではない。例えば重力場を考えると、弱い重力場であれば、互いの重力をそのまま足してやればいいが、強い重力を考えるときは互いに影響が出てしまって単純に和を取って終了、というわけにはいかないのだ。
電場も同じように、強い電場でのクーロン力を考えると、互いに影響を及ぼし合ってしまうのかもしれないが、そうなってくると電荷と電荷の距離が接してしまうくらいにとても近いか、電気量がとてつもなく大きいかのどちらかである。
電磁場と弱い力は高エネルギー領域では統一され、別の理論によって説明がつくから、少なくとも線形性が成立するくらいの範囲での電場を考えるのが電磁気学である、としておこう。
■\(Coulomb\)力の重ね合わせの原理
そういうわけで、ベクトル表記したクーロンの法則を、そのまま足し合わせてみよう。電荷2が電荷1に及ぼす、ということをはっきりさせるために矢印を示していたが、それも省略してしまおう。
\(\boldsymbol{F_{1 \leftarrow 2}}=\boldsymbol{F_{12}}=\displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}・\displaystyle\frac{q_1q_2}{|\boldsymbol{r_1}-\boldsymbol{r_2}|^2}・\frac{\boldsymbol{r_1}-\boldsymbol{r_2}}{|\boldsymbol{r_1}-\boldsymbol{r_2}|}\)
であったから、ある電荷\(q_0\)に対して、その周囲にある電荷\(q_1\)、\(q_2\)、\(q_3\)…が及ぼす力の合計は、
\(\boldsymbol{F_0}=\boldsymbol{F_{01}}+\boldsymbol{F_{02}}+\boldsymbol{F_{03}}+…\)
\(=\displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}・\displaystyle\frac{q_0q_1}{|\boldsymbol{r_0}-\boldsymbol{r_1}|^2}・\frac{\boldsymbol{r_0}-\boldsymbol{r_1}}{|\boldsymbol{r_0}-\boldsymbol{r_1}|} + \displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}・\displaystyle\frac{q_0q_2}{|\boldsymbol{r_0}-\boldsymbol{r_2}|^2}・\frac{\boldsymbol{r_0}-\boldsymbol{r_2}}{|\boldsymbol{r_0}-\boldsymbol{r_2}|} + \displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}・\displaystyle\frac{q_0q_3}{|\boldsymbol{r_0}-\boldsymbol{r_3}|^2}・\frac{\boldsymbol{r_0}-\boldsymbol{r_3}}{|\boldsymbol{r_0}-\boldsymbol{r_3}|} +…\)
\(=\displaystyle \sum_{j=1}^N \displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}・\displaystyle\frac{q_0q_j}{|\boldsymbol{r_0}-\boldsymbol{r_j}|^2}・\frac{\boldsymbol{r_0}-\boldsymbol{r_j}}{|\boldsymbol{r_0}-\boldsymbol{r_j}|} \)
となる。
これらから、一般的に、\(i\)番目の電荷が、周囲にある\(N\)個の電荷から及ぼされるクーロン力の合力は、
\(\boldsymbol{F_i}=\displaystyle \sum_{j=1}^N \displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}・\displaystyle\frac{q_iq_j}{|\boldsymbol{r_i}-\boldsymbol{r_j}|^2}・\frac{\boldsymbol{r_i}-\boldsymbol{r_j}}{|\boldsymbol{r_i}-\boldsymbol{r_j}|} \)
となる。当然ながら、\(i\)番目の電荷が\(i\)番目の電荷自身に力を及ぼすことは考えないから、\(i=j\)となるところは解無しとするのではなく、そもそも無いものとしておく。\(i\)番目とか、\(j\)番目なんていうものは好きに決めていいのだから、さっきの議論のように、\(i\)番目というものが\(0\)番目のことで、\(j\)番目を\(1\)から後の数で数えれば、\(i=j\)とならないシグマのとり方は可能だ。
所詮、数式は数式であって、考え方の部分が分かっていれば表現は何だっていい。現象が分かり切っているものまで数学上のルールで難しくするのはナンセンスである。現象が分かりにくいものや未知のものを数式で表したときに、式が表す意味を、ああでもないこうでもないと議論するのが、ツールとしての数学の正しい使い方だと私は思う。