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クーロンの法則

■\(Coulomb\)の法則から入るか\(Maxwell\)方程式から入るか

 電磁気学を復習しようと思ったら、たいていの”教科書”は\(Coulomb\)の法則から始まる。これは歴史的な流れで法則がどのように書き換えられていったかという、先人が経験した流れを追っていく流派で、身近な現象をイメージしながら学習を進めることができるから、入りの部分の理解はしやすい。

 しかし、先人が直線的に学問を発展させたわけではなく、処々に理解に苦しむ壁が現れ、それを乗り越えては新しい壁が現れ、最終的に\(Maxwell\)方程式へとたどり着いているわけである。

 

 この流れは量子力学でも同じで、まず現象というシンプルな目の前の事実があって、それぞれの現象を立式化して変形していく中で、原理とは何かを見出すという流れである。

 相対論では、天才的なアインシュタインが、原理からスタートさせて理論を構築させたが、これが異常なだけであって、ふつうは現象から法則、理論へと発展していく。

 

 いまや\(Maxwell\)方程式が知られているんだから、先人の苦労まで一緒になってたどらなくても、最終結論から解釈することができる電磁気学を考える流派も当然ながら存在する。砂川著の「理論電磁気学」だと、この流派で進めているから、冒頭からいきなりマクスウェル方程式をはじめ、ゲージ変換やらポインティングベクトルやらが登場する。

 

 理論的には確かに近道なのかもしれないが、私は数式に弱いから、歴史の流れに乗って先人の苦労も味わいつつマクスウェル方程式へ進んでいくスタイルを取ることにした。このへんはセンスというよりも好みなのかもしれない。

 

■\(Coulomb\)の法則

 クーロンの法則とは、高校物理でもおなじみであるが、2つの点電荷の間に働く力について記述した法則である。高校で学ぶときには

 

 \(F=k_0\displaystyle\frac{q_1q_2}{r^2}\)

 (\(F>0\):斥力 \(F<0\):引力)

 

と書く。ここで登場する\(k_0\)は、真空におけるクーロンの法則の比例定数であり、\(9.0×10^9[Nm^2/C^2]\)という値であるが、「1C」の定義は「1A」から決められており、「1A」の定義は平行電流が互いに及ぼし合う力から定義されている。それらを考慮すると、\(k_0\)ではなく、真空の誘電率を用いて、

 

 \(F=\displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}・\frac{q_1q_2}{r^2}\)

 

と書き直すことが今は知られている。

 

 もはや現代ではマクスウェル方程式が誕生してしまって、電磁気学という学問は高度に発達してしまっているから、こういう話で、「もう少し後で学ぶことだが」というフレーズがたくさん登場する。これが嫌でマクスウェルから学ぶ流派こそが正統派で、物事をシンプルに考えることができる、ということになってしまうんだろう。

 まぁどっちから始めようが、いきなり100の知識を習得するのは無理な話であろうし、特に気にしないでおこう。クーロンの法則は、\(k_0\)を使わずこう書ける。今はきっとそれだけで十分であろう。

 

■\(Coulomb\)の法則のベクトル表記

 ところでクーロン力\(F\)はベクトルである。\(q_1\)から\(q_2\)に向かうベクトルを\(\boldsymbol{r}\)、その大きさを\(r=|\boldsymbol{r}|\)とおくと、\(\boldsymbol{r}\)と同じ向きの単位ベクトルは

 

 \(e=\displaystyle\frac{\boldsymbol{r}}{r}\)

 

と表せるから、クーロンの法則をベクトルで表すと、

 

 \(\boldsymbol{F}=\displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}・\displaystyle\frac{q_1q_2}{r^2}\boldsymbol{e}\)

 

 \(\boldsymbol{F}=\displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}・\displaystyle\frac{q_1q_2}{r^2}\frac{\boldsymbol{r}}{r}\)

 

と書ける。これがクーロンの法則のベクトル表記である。

 

 ちなみに、これは電荷\(q_2\)が原点に存在していて、そこから位置ベクトル\(\boldsymbol{r}\)だけ離れた点に別の電荷\(q_1\)があるとして考えたとき、電荷\(q_2\)が電荷\(q_1\)に及ぼす力を表した式であると解釈できる。

 

 しかし電荷は必ずしも原点に存在するとは限らない。より一般的に考えてみよう。

 それぞれの電荷が位置ベクトル\(\boldsymbol{r_1}\)、\(\boldsymbol{r_2}\)にあったとする。このとき、電荷\(q_1\)にはたらくクーロン力を考えようと思えば、電荷\(q_2\)が電荷\(q_1\)に及ぼす力を考えていることになる。

 

 そこでまずクーロンの法則の左辺の\(F\)は\(F_{1 \leftarrow 2}\)と書くことにする。そして2電荷間の変位ベクトル\(\boldsymbol{r}\)は\(\boldsymbol{r_1}-\boldsymbol{r_2}\)と書けるから、

 

 \(\boldsymbol{F_{1 \leftarrow 2}}=\displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}・\displaystyle\frac{q_1q_2}{|\boldsymbol{r_1}-\boldsymbol{r_2}|^2}・\frac{\boldsymbol{r_1}-\boldsymbol{r_2}}{|\boldsymbol{r_1}-\boldsymbol{r_2}|}\)

 

となる。当然ながら、その逆に及ぼされるほうの力は

 

 \(\boldsymbol{F_{2 \leftarrow 1}}=\displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}・\displaystyle\frac{q_1q_2}{|\boldsymbol{r_2}-\boldsymbol{r_1}|^2}・\frac{\boldsymbol{r_2}-\boldsymbol{r_1}}{|\boldsymbol{r_2}-\boldsymbol{r_1}|}\)

 

であるから、\(F_{1 \leftarrow 2}=-F_{2 \leftarrow 1}\)も成り立ち、作用反作用の法則が成立しているのも容易に確かめられる。