■電気双極子
図のように、空間に異なる種類の電荷が2つあり、それらが対になっているとします。こういうものを電気双極子といいます。
この電荷間の距離を\(d\)とします。そして、負電荷を始点として、負電荷から正電荷までの変位ベクトル\(\boldsymbol{d}\)を用いて、
\(\boldsymbol{p}=q\boldsymbol{d}\)
という物理量を定義します。これを、電気双極子モーメントとよびます。
■電気双極子のつくる電場
ここまでクーロンの法則で、点電荷が作る電場については計算したが、実際に点電荷がポロっとそのへんに落ちている状況は少ないはずだ。原子一つ考えても、陽子と、その周囲に電子を抱え込んでいるから、現実に存在している物体の、結晶構造なりを考えたりすると、点電荷が作る電場よりも、電気双極子が作る電場を考えた方が利用価値はありそうな気がする。
そういうわけで、電場の重ね合わせを使って、電気双極子の電場を求めておこうと思う。
結論から言うと、以下の通りになる。
▼電気双極子の作る電場(直交座標表示)
\(E_x≒\displaystyle\frac{p}{4\pi\varepsilon_0r^5}(2x^2-y^2)\)
\(E_y≒\displaystyle\frac{3p}{4\pi\varepsilon_0r^5}xy\)
▼電気双極子の作る電場(極座標表示)
\(E_r=\displaystyle\frac{2pcos\theta}{4\pi\varepsilon_0r^3}\)
\(E_{\theta}=\displaystyle\frac{psin\theta}{4\pi\varepsilon_0r^3}\)
これらがどのように表れるのかを追いかけてみよう。
図のように電荷が配置されていることにしておいて、\(\boldsymbol{r}=(x,y)\)となる点に作る電場を考えることにする。電荷の電気量はそれぞれ\(+q\)と\(-q\)であるとしておこう。それぞれの電荷はわずかながらに離れているので、
\(\boldsymbol{r_1}=(x+a,y)\)
\(\boldsymbol{r_2}=(x-a,y)\)
である。よって、電気双極子の作る電場は、重ね合わせの原理によって、
\(\boldsymbol{E}=\displaystyle\frac{-q}{4\pi\varepsilon_0r^3_1}\boldsymbol{r_1}+\frac{q}{4\pi\varepsilon_0r^3_2}\boldsymbol{r_2}\)
\(=\displaystyle\frac{q}{4\pi\varepsilon_0} \left( \frac{\boldsymbol{r_2}}{r^3_2}-\frac{\boldsymbol{r_1}}{r^3_1} \right) \)
となる。ベクトルを成分で計算すると、
\(\boldsymbol{E}=\displaystyle\frac{q}{4\pi\varepsilon_0} \left( \frac{(x-a,y)}{[(x-a)^2+y^2]^{\frac{3}{2}}} - \frac{(x+a,y)}{[(x+a)^2+y^2]^{\frac{3}{2}}} \right) \)
となる。これで終わりと言えば終わりだが、もう少し見やすい形にならないだろうか。分母のかたまりを何とかしたい。そこで、
\(r^2=x^2+y^2\) , \(x=rcos\theta\) , \(y=rsin\theta\)
であることを利用して、もう少しだけ式をシンプルにできないか考えてみよう。
とりあえず、分母のかたまりだけ持ってきて、単純に代入してみることにする。
\(\displaystyle\frac{1}{[(x-a)^2+y^2]^{\frac{3}{2}}}\)
\(=\displaystyle\frac{1}{(x^2+y^2-2xa+a^2)^{\frac{3}{2}}}\)
\(=\displaystyle\frac{1}{(r^2-2arcos\theta+a^2)^{\frac{3}{2}}}\)
\(=\displaystyle\frac{1}{r^3(1-2\frac{a}{r}cos\theta+\frac{a^2}{r^2})^{\frac{3}{2}}}\)
となる。電気双極子の2つの電荷間の距離は、とても近いところにあるため、\(a≪r\)としても良い。すると、分母の第3項が無視できるので、
\(≒\displaystyle\frac{1}{r^3(1-2\frac{a}{r}cos\theta)^{\frac{3}{2}}}\)
となる。また、分母の第2項もかなり小さい値であるから、\(Newton\)近似 \((1+x)^n≒1+nx\) を使って、
\(=\displaystyle\frac{1}{r^3}(1-2\frac{a}{r}cos\theta)^{-\frac{3}{2}}\)
\(≒\displaystyle\frac{1}{r^3}\left(1+3\displaystyle\frac{a}{r}cos\theta\right)\)
と、ここまで簡単にしてしまおう。同様に、
\(\displaystyle\frac{1}{[(x+a)^2+y^2]^{\frac{3}{2}}}≒\displaystyle\frac{1}{r^3}\left(1-3\displaystyle\frac{a}{r}cos\theta\right)\)
も得られる。
これらを用いれば、
\(E_x(x,y)=\displaystyle\frac{q}{4\pi\varepsilon_0r^3} \left[ (x-a)\left(1+3\frac{a}{r}cos\theta \right) - (x+a)\left(1-3\frac{a}{r}cos\theta \right) \right]\)
\(=\displaystyle\frac{2aq}{4\pi\varepsilon_0r^3}\left( \frac{3x}{r}cos\theta-1 \right)\)
\(=\displaystyle\frac{p}{4\pi\varepsilon_0r^3}(3cos^2\theta-1)\)
\(=\displaystyle\frac{p}{4\pi\varepsilon_0r^3}(3\frac{r^2cos^2\theta}{r^2}-1)\)
\(=\displaystyle\frac{p}{4\pi\varepsilon_0r^5}(3x^2-r^2)\)
\(=\displaystyle\frac{p}{4\pi\varepsilon_0r^5}(2x^2-y^2)\)
となる。式変形にはたびたび\(r^2=x^2+y^2\),\(x=rcos\theta\),\(y=rsin\theta\)が利用されている。
また、\(y\)成分の方も同様にして、
\(E_y(x,y)=\displaystyle\frac{qy}{4\pi\varepsilon_0r^3} \left[ \left(1+3\frac{a}{r}cos\theta \right) - \left(1-3\frac{a}{r}cos\theta \right) \right]\)
\(=\displaystyle\frac{qrsin\theta}{4\pi\varepsilon_0r^3} \left[ \left(1+3\frac{a}{r}cos\theta \right) - \left(1-3\frac{a}{r}cos\theta \right) \right]\)
\(=\displaystyle\frac{3p}{4\pi\varepsilon_0r^3} sin\theta cos\theta\)
\(=\displaystyle\frac{3p}{4\pi\varepsilon_0r^5} xy\)
となる。こちらでも式変形にはたびたび\(r^2=x^2+y^2\),\(x=rcos\theta\),\(y=rsin\theta\)が利用されている。
極座標への変換は、もう追いかけないが、指針としては、
\(E_r=E_xcos\theta +E_ysin\theta\)
\(E_{\theta}=-E_xsin\theta+E_ycos\theta\)
に代入して、ただひたすら計算するだけなので、まあいけるでしょう。おそらく。
代入するときは、完全に直交座標表示されきったところからスタートしなくても、少し手前の、
\(E_x=\displaystyle\frac{p}{4\pi\varepsilon_0r^3}(3cos^2\theta-1)\)
\(E_y=\displaystyle\frac{3p}{4\pi\varepsilon_0r^3} sin\theta cos\theta\)
あたりの式を使えばいいと思います。