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電磁波の伝播速度

■電磁波を仮定

 前回の議論で、どうやらアンペールの法則ファラデーの電磁誘導の法則から、電磁波というものが発生するであろう、ということが判明した。

 

 これは、高校物理でも説明される内容であるが、正しいか間違っているかは置いといて軽く説明する。

 電流を流すと、アンペールの法則(右ねじの法則)に従って、電流の周囲に磁場が発生する。磁場が発生すると、今度はファラデーの電磁誘導の法則に従って、誘導電流が生じる。すると再びアンペール則に従って磁場が発生し、そしてまたそのために誘導電流が流れる、といった現象が起こるということである。このように電場と磁場が交互に発生しながら周囲に伝播していく、これを、電磁波と呼ぼう、としたわけである。

 

 そうなると、次に気になるのが、この電磁波は波動としてどのような式で表されるのか、そして電磁波はいったいどのくらいの速さで伝わっているのか、といったことだ。

 

 結論から言うと、電磁波は光速で伝わっている。そして光、つまりは可視光線も電磁波の一種であることも今となっては知られている。もっと言うと、前回の議論で、すでに電磁波が光速で進むことが前提で式変形されてしまっている。

 

 ここでは、話が少し前後してしまうが、電磁波は本当に光速で進んでいるのか、ということを式変形しながら、光速の性質についても追っていこうと思う。

 

 

 さて、肝心の電磁波であるが、どのような式で表せばいいのか皆目見当がつかない。とりあえず、速さ\(c\)で進む一般の波動として式を仮置きしてみよう。電磁波とは言うが、電場の伝播を考えても、磁場の伝播を考えても、どちらも同じことであるから、いまは電場の変動のみに着眼することにする。

 

\(y\)軸方向に偏り、\(x\)軸方向に速さ\(c\)で進む電場の波を考える。

 

 \(E_y=E_0\sin\omega\left(t-\displaystyle\frac{x}{c} \right)\)

 

ここで波の速さ\(c\)は、今の時点ではいわゆる”ふつうの”速さのことだから、時間に依存する従属変数である。何なら、\(v\)とか\(v(t)\)とかいう風に書いても問題はなかろう。

\(\omega\)を書き直して、

 

 \(E_y=E_0\sin2\pi\nu\left(t-\displaystyle\frac{x}{c} \right)\)

 

としておく。いまはこれを電磁波の伝播式、としておく。

 

 

■電磁波の伝播則を求める

 

これを、電磁波の統一式

 

 \(\Box \mathbf{E}=0\)

 

に代入すると、

 

 \(\Box E_y=0\)

 

 \(-\Delta E_y\)\(+\mu_0\varepsilon_0 \displaystyle\frac{\partial ^2 E_y}{\partial t^2}\)\(=0\)

 

となる。前回、\(\mu_0\varepsilon_0 =\displaystyle\frac{1}{c^2}\)である前提で話が進んでいるが、今回はそう変形する前の式が電磁波の式だということにしておく。

 

第一項

 

 \(-\Delta E_y\)\(=-\displaystyle\frac{\partial ^2}{\partial x^2}E_0\sin2\pi\nu\left(t-\displaystyle\frac{x}{c} \right)\)

 

  \(=-(2\pi\nu)^2\left(-\displaystyle\frac{1}{c} \right)  \left[-E_0\sin 2\pi\nu\left(t-\displaystyle\frac{x}{c} \right) \right]\)

 

  \(=\left(\displaystyle\frac{2\pi\nu}{c} \right)^2 E_y\)

 

第二項

 

 \(\mu_0\varepsilon_0 \displaystyle\frac{\partial ^2 E_y}{\partial t^2}\)\(=\mu_0\varepsilon_0 \displaystyle\frac{\partial ^2}{\partial t^2} E_0\sin2\pi\nu\left(t-\displaystyle\frac{x}{c} \right)\)

 

  \(=\mu_0\varepsilon_0 (2\pi\nu)^2 \left[-E_0\sin 2\pi\nu\left(t-\displaystyle\frac{x}{c} \right) \right]\)

 

  \(=-\mu_0\varepsilon_0 (2\pi\nu)^2 E_y\)

 

 

よって、

 

 \(\left(\displaystyle\frac{2\pi\nu}{c} \right)^2 E_y\)\(-\mu_0\varepsilon_0 (2\pi\nu)^2 E_y\)\(=0\)

 

 \(\displaystyle\frac{1}{c^2}\)\(-\mu_0\varepsilon_0\)\(=0\)

 

 \(c\)\(=\)\(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{\mu_0\varepsilon_0}}\) ~\(3.0×10^8[m/s]\)

 

 

これによって、一つ大きな事実が判明した。

\(Maxwell\)方程式に含まれている\(\mu_0\)や\(\varepsilon_0\)は基本定数だったから、これらから\(c\)が導き出されるということは、\(c\)も定数と見做さざるを得ない。もともと一般的な時間関数として考えていたが、式変形した結果、時間の要素が全く関係しない、単なる定数だということになってしまったのだ。

 

つまり、\(Maxwell\)の理論には光速度\(c\)を含んでいるため、\(Maxwell\)の理論は\(Galilei\)変換に対して、不変ではない、ということをほぼ直接的に示している。

 

 

少し先の話になるが、\(Einstein\)が光速度不変則を理論に持ってきた根幹は、ここにある。

大多数の科学者は、この結論に対して、光速度は真空に対して定数値を持つもので、観測する地点や光源の運動状況に応じて、とらえ方は変わるかもしれない、と考え始めた。

 

一方の\(Einstein\)は、光速は定数であるから、変数として通常処理されるようなものではなく、定数は定数だ、とした。

どの系から見ようが、光源が動こうが、定数は定数であって変化するわけはない、と。

 

なるほどというべきか、観点が鋭いというべきか。はたまた安直と見做す話なのか。